ボルトせん断強度とは?意味や基準値も!(許容応力:強度区分:M10・M12など)
機械部品や鉄骨、架台などを接合するボルトは、引っ張る力だけでなく、部材同士を横方向へずらそうとする力も受けます。
この横方向の力に耐える能力がボルトせん断強度であり、締結部の安全性や耐久性を判断する重要な要素です。
特にM10やM12のような呼び径だけで強さを決めるのではなく、強度区分、ねじ部の位置、せん断面の数、許容応力を合わせて確認する必要があります。
ここでは、ボルトせん断強度の意味から計算方法、代表的な基準値、設計時の注意点までをわかりやすく整理します。
ボルトせん断強度の意味と基本的な考え方

それではまず、ボルトせん断強度の意味と考え方について解説していきます。
せん断力とボルトに起こる破断
せん断力とは、物体を面に沿って横へ切ろうとする力です。
たとえば、重ねた鋼板をボルトで固定し、一方の鋼板だけを横に引っ張ると、ボルトの軸には板をずらそうとする力が加わります。
このときボルトが受ける横方向の荷重がせん断荷重であり、耐えられる限界がせん断強度です。
限界を超えると、ボルト軸がはさみで切られたように破断するおそれがあります。
せん断強度は、単にボルト自体の材質だけでなく、力を受ける断面積によって大きく変化します。
同じ材質でも、太いボルトほど断面積が大きくなるため、一般にはより大きなせん断荷重に対応できます。
ただし、ねじ山がせん断面にかかる場合は、有効断面積が小さくなり、軸部で受ける場合より耐力が下がります。
ボルトせん断強度を確認するときは、ボルト径だけで判断しないことが重要です。
強度区分、ねじ部か軸部か、片せん断か両せん断か、接合材の穴周辺強度まで確認して初めて安全な評価につながります。
引張強度との違い
ボルト強度としてよく知られる引張強度は、ボルトを軸方向へ引き抜こうとする力への強さを表します。
一方、せん断強度は軸に対して直角方向に働く力への強さです。
荷重の向きが異なるため、設計計算でも区別して扱います。
たとえば吊り金具をボルトで固定する場合、荷重の向きによっては引張とせん断が同時に生じることがあります。
その場合、せん断だけを満たしていても十分とは限りません。
実際の接合部では、引張力とせん断力の組み合わせを想定することが安全設計の基本です。
締付け状態、偏心荷重、振動の有無によって応力状態も変わるため、単純な一方向荷重として扱えない場面もあります。
破壊を防ぐために見るべき部位
ボルト接合部では、ボルトのせん断破断以外にも複数の破壊形態が考えられます。
代表例は、接合材の穴が広がる支圧破壊、板端部が裂ける破断、ボルトの曲げ、ねじ部の破損です。
そのため、ボルトのせん断耐力だけを大きくしても、薄い板や端距離の短い接合部では別の箇所が先に壊れる可能性があります。
ボルト本数を増やす場合も、荷重が均等に分担されるとは限りません。
穴のクリアランス、部材のたわみ、加工誤差によって、一部のボルトへ荷重が集中することがあります。
設計では接合部全体を一つの系として確認する視点が欠かせません。
許容応力と安全率による基準値
続いては、許容応力と安全率を用いた基準値を確認していきます。
許容せん断応力の役割
許容せん断応力とは、使用中にボルトへ作用させてもよい応力の上限値です。
材料が破断する直前の強さそのものではなく、ばらつきや使用条件を考慮して余裕を持たせた値です。
この余裕を安全率と呼びます。
強度区分から得られる引張強さや降伏点を基に、規格、設計基準、社内基準などで許容値を設定します。
許容応力は万能の固定値ではなく、採用する設計基準と用途に合わせて扱う数値です。
建築、橋梁、機械装置、圧力機器では、必要となる基準や照査方法が異なる場合があります。
製品仕様書や該当するJIS、業界団体の設計基準を優先して確認するとよいでしょう。
せん断応力の基本式は次の考え方です。
せん断応力 τ = せん断荷重 V ÷ せん断面積 A
許容せん断荷重は、許容せん断応力にせん断面積を掛けて求めます。
強度区分とボルト材料の読み方
メートルねじのボルトには、8.8や10.9のような強度区分が表示されることがあります。
これは主に機械的性質を示す区分であり、数字が大きいほど一般に高い強度を持つ傾向があります。
8.8級では、最初の数字に100を掛けた値がおおよその引張強さの目安になります。
10.9級であれば、より高い引張強さと降伏点が期待されます。
ただし、ステンレスボルト、アンカーボルト、タッピンねじなどは同じ考え方で単純比較できないことがあります。
表面処理、熱処理、腐食環境、使用温度によっても性能は変化します。
| 強度区分の例 | 引張強さの目安 | 用途の傾向 |
|---|---|---|
| 4.8 | 約400N/mm²級 | 軽荷重の一般機械部品 |
| 8.8 | 約800N/mm²級 | 機械設備や一般的な構造部 |
| 10.9 | 約1000N/mm²級 | 高荷重部や締結力を要する部位 |
| 12.9 | 約1200N/mm²級 | 高強度が必要な機械要素 |
表の数値は理解のための目安であり、実際の設計にそのまま使う数値ではありません。
ボルトメーカーの仕様値や適用規格により、保証荷重や許容荷重の扱いが異なるためです。
安全率を見込む理由
安全率は、理論計算だけでは吸収しにくい不確実性に備えるために設けます。
荷重の変動、衝撃、組立誤差、締付け不足、経年劣化などが現場では起こり得ます。
繰り返し荷重を受ける箇所では、静的な強度が十分でも疲労破壊が問題になることがあります。
特に振動する設備では、ボルトの破断より先に緩みが進行し、荷重状態が悪化するケースにも注意が必要です。
安全率を過度に大きくすればよいわけでもありません。
ボルトを必要以上に大径化すると、部材の穴加工やコスト、重量、締結スペースに影響します。
適切な基準に基づき、必要な余裕を確保することが現実的な設計につながります。
M10とM12におけるせん断耐力の見方
続いては、M10とM12でせん断耐力を見る際のポイントを確認していきます。
呼び径と断面積の関係
M10は呼び径が10mm、M12は呼び径が12mmのメートルねじを表します。
直径がわずか2mm違うだけに見えても、断面積は直径の二乗に比例するため、耐力差は比較的大きくなります。
軸部の断面積は、直径から円の面積として算出できます。
M10の軸部断面積は約78.5mm²、M12では約113.1mm²です。
同じ材質で軸部がせん断面となるなら、M12はM10より大きなせん断荷重を受けられる計算になります。
円形断面積の考え方は次のとおりです。
断面積 A = π × d² ÷ 4
dにボルト軸径を入れて、せん断面積を求めます。
ねじ部がせん断面にある場合
実務では、せん断面がボルトの滑らかな軸部ではなく、ねじ部にかかる場合があります。
ねじ部は谷径が小さく、同じM10やM12でも有効に使える断面積が減少します。
そのため、ねじ部をせん断面に含む接合では、ねじの有効断面積や規格上の有効断面を用いて確認することが一般的です。
ボルト長さを選ぶときは、せん断面を可能なら軸部に配置できるかどうかも重要な検討項目です。
全ねじボルトは施工しやすい反面、せん断面がねじ部になりやすい特徴があります。
高いせん断耐力を必要とする接合では、首下長さやねじ長さを確認し、適切な半ねじボルトを選ぶ方法もあります。
| 確認項目 | M10での着眼点 | M12での着眼点 |
|---|---|---|
| 軸部断面積 | 約78.5mm²を目安に確認 | 約113.1mm²を目安に確認 |
| ねじ部断面 | 谷径による低下を考慮 | 谷径による低下を考慮 |
| 穴径 | 規格と施工誤差を確認 | 規格と施工誤差を確認 |
| 締結スペース | 工具の干渉を確認 | 座金と工具の寸法を確認 |
本数とせん断面数による違い
ボルトが複数本ある場合、理想的には荷重を本数で分担すると考えられます。
たとえば同じ条件のボルトが2本あり、均等に力を受けるなら、1本あたりの負担は全荷重のおよそ半分です。
しかし実際には、穴のがた、取付け精度、部材の変形などで荷重分布が偏ることがあります。
また、ボルトが片側だけの接合材を通る片せん断か、中央部材を両側から挟む両せん断かでも耐力の考え方が変わります。
両せん断では、原則として二つのせん断面が生じます。
せん断面が二つになる構造では耐力が増えますが、単純に二倍と決めつけず、部材の剛性や荷重伝達も確認することが大切です。
片せん断のボルト1本で許容荷重を求める場合の例です。
許容せん断荷重 = 許容せん断応力 × 有効せん断面積
両せん断で二つの面が均等に働く条件では、この面積を二面分として評価します。
JIS規格と強度区分の確認方法
続いては、JIS規格と強度区分を確認する方法について見ていきます。
規格を確認する目的
JIS規格は、ボルトの寸法、公差、ねじの形状、機械的性質などを共通化するための基準です。
規格に適合した製品を選定することで、相手部品との互換性や品質の確認がしやすくなります。
一方で、JISに関係する数値を断片的に拾い、用途や規格の適用範囲を確認せず使うのは危険です。
ボルトの種類によって、参照すべき規格や表示方法が異なることがあります。
設計図面では、呼び径、ピッチ、長さ、強度区分、表面処理、座金やナットの指定まで記載される場合があります。
強度区分の表示と組み合わせ
強度区分はボルト頭部の刻印や製品証明書、メーカーのカタログなどで確認できます。
高強度ボルトを使用する場合、ナットや座金も対応する強度や仕様を選ぶ必要があります。
ボルトだけを高強度品にしても、ナットのねじ山が先に損傷すれば期待した性能は得られません。
締結部はボルト、ナット、座金、接合材の組み合わせで性能が決まります。
異なる材質を組み合わせると、腐食やかじりが起こりやすくなる場合もあります。
屋外や湿潤環境では、溶融亜鉛めっき、クロメート処理、ステンレス材など、耐食性を含めた選定が求められます。
規格値を設計へ反映する手順
規格値を設計へ反映する際は、まず必要荷重と荷重方向を明確にします。
次に、接合形式を片せん断か両せん断かに分け、せん断面が軸部とねじ部のどちらに位置するかを確認します。
そのうえで、採用する強度区分と材料証明に基づき、許容応力または設計耐力を設定します。
最後にボルトのせん断破断だけでなく、接合板の支圧、縁端破壊、ナットのねじ山、締付け条件まで照査します。
図面変更や部品変更があった場合は、ボルト径だけでなく、この一連の条件を見直すことが必要です。
接合条件による強度低下と施工上の注意点
続いては、接合条件による強度低下と施工上の注意点を確認していきます。
ボルト穴と支圧の影響
ボルト穴には施工性を考慮したクリアランスが設けられることがあります。
穴が大きすぎると、荷重が加わった際に部材がわずかに動き、ボルトと穴縁の接触位置へ負担が集中します。
このとき問題となるのが支圧です。
接合板が薄い場合や材料が軟らかい場合は、ボルトが破断する前に穴周辺が変形するおそれがあります。
ボルトのせん断強度が高くても、接合材の支圧強度が不足していれば接合部全体の耐力は上がりません。
穴径、板厚、材料強度、端距離、ボルト間隔をバランスよく設定することが重要です。
接合部の安全性は、最も弱い箇所で決まります。
ボルト軸のせん断、接合板の支圧、板の破断、ナットのねじ山などを比較し、最小となる耐力を接合部の基準として扱います。
締付けトルクと緩みへの対策
適切な締付けは、ボルトの緩みを防ぎ、接合部の安定性を保つために必要です。
締付けトルクが不足すると、振動や繰り返し荷重によりナットが回転し、締結力が低下することがあります。
反対に、過大なトルクはボルトを過度に引き伸ばし、降伏やねじ部損傷につながる可能性があります。
トルク管理が必要な箇所では、規定トルク、潤滑状態、工具精度を管理します。
ばね座金、緩み止めナット、ねじロック剤、割ピンなどは用途に応じて選択します。
ただし、緩み止め部品を使えば強度計算が不要になるわけではありません。
疲労と腐食を考慮した点検
繰り返し力が作用する機械では、疲労によるボルト破損に注意が必要です。
停止と起動を繰り返す装置、回転機械、搬送設備、車両部品などでは、静荷重より疲労が支配的になることがあります。
腐食も断面積を減少させ、ボルトの強度を低下させる要因です。
海岸部、薬品を扱う設備、結露しやすい屋外盤では、定期点検と防錆対策が特に重要になります。
錆、ナットの緩み、座金の沈み込み、穴の変形を早期に見つけることが、突発的な破損の予防につながります。
点検記録を残し、交換時期や締付け状態を管理すると、保全作業の精度も高まります。
ボルトせん断強度の計算と選定手順
続いては、ボルトせん断強度を計算して選定する手順について確認していきます。
作用荷重の整理
最初に、接合部へ加わる最大荷重を整理します。
定常荷重だけでなく、起動時の衝撃、非常停止時の荷重、偏荷重、地震荷重なども用途に応じて考慮します。
荷重の向きがボルト軸に対して斜めの場合は、せん断成分と引張成分に分けて評価します。
複数本のボルトがある場合は、重心からの距離による荷重分担も確認します。
偏心した位置に荷重がかかると、単純な本数割りでは計算できないことがあります。
必要断面積の求め方
許容せん断応力が決まれば、必要なせん断断面積を求められます。
必要断面積は、設計上のせん断荷重を許容せん断応力で割る考え方です。
求めた断面積に対して、候補となるM10やM12などの有効断面積を比較します。
ねじ部がせん断面となるなら、軸径の面積ではなく、ねじ部の条件を反映した面積を使います。
必要せん断面積の考え方です。
必要面積 A = 設計せん断荷重 V ÷ 許容せん断応力 τ
この値より大きい有効断面積を持つボルト径と本数を選定します。
計算値がぎりぎりの場合は、ボルト径を一段階上げる、本数を増やす、両せん断構造に変更するなどの対策を検討します。
安全側の選定では、計算上の余裕だけでなく、施工性と将来の保守性も確認することが大切です。
選定後に確認する実務項目
ボルト径と本数を決めた後は、工具が入るスペース、ナットの回転スペース、座金の外径、締付け作業の姿勢を確認します。
強度上はM12で問題なくても、周囲部品との干渉で規定トルクをかけられなければ、設計どおりの性能は得られません。
また、ボルト長さは締結する板厚、座金、ナットの高さ、ねじのかかり長さを考慮して決めます。
長すぎるボルトは干渉や安全上の問題となり、短すぎるボルトはナットのねじ掛かり不足につながります。
量産品では、入手性や調達期間も大切な判断材料です。
特殊な径や長さにすると、保守用部品の確保が難しくなる場合があります。
ボルト選定は、強度計算を終えた時点で完了ではありません。
規格適合、接合材の耐力、締付け管理、耐食性、施工性、保守性を確認して、初めて実用的な締結設計になります。
ボルトせん断強度に関するまとめ
ボルトせん断強度は、横方向の荷重によってボルトが切断されることを防ぐための重要な性能です。
M10やM12といった呼び径は選定の出発点になりますが、径だけで安全性を判断することはできません。
強度区分、許容応力、せん断面の位置、片せん断と両せん断の違いを踏まえて、必要な耐力を計算することが基本です。
ねじ部がせん断面にかかる場合は断面積が小さくなるため、軸部で受ける条件との差を意識しましょう。
さらに、接合板の支圧、穴径、端距離、締付けトルク、緩み、疲労、腐食まで確認する必要があります。
最終的には、ボルト単体ではなく接合部全体の中で最も弱い箇所を見極めることが、安全で信頼性の高い設計につながります。
実際の設計では、適用するJIS規格、製品カタログ、設計基準の最新内容を確認し、用途に合ったボルト径と強度区分を選定してください。